パーヴェル・パズーヒンさん
ストップモーションアニメーター
ストップモーションアニメーターのパーヴェル・パズーヒンさんは、静的なオブジェクトにユーモアのある動きや自然の美しさの要素を加えた唯一無二の作品を作られています。
そんなパーヴェルさんに現在の活動とモノを選ぶ上で大切にしていることや、『MDノート』の存在についてお伺いしました。
――パーヴェルさんの現在の活動や取り組んでいるプロジェクトについて教えてください。
今は京都に拠点を置きながら、さまざまな企業様の広告用の動画を作っています。また、日本のプロダクトデザインを題材にしたアニメーションにも取り組んでいます。
その一環でいつもお世話になっているFabCafe Kyotoのスペースをお借りして、展覧会「MY FAVORITE PRODUCT DESIGN」を開催しました。作品を通して、私が日常的に使っているノートやペン、カップといったモノへの愛情を表現する内容となっています。
過去2年間はアート作品のみを展示してきましたが、今回は「日用品はただの日用品ではない」「プロダクトアニメーションは広告だけのものではなく、アートにもなり得る」ということを伝えたいと思い開催しました。作品の中で、『MDノート』も紹介させていただいています。
――動画を拝見すると、本当にモノに生命が宿っているような動きのある作品でとても素敵でした。制作をはじめたきっかけや、制作する上で特に大切にしていることは何ですか?
ストップアニメーションを作り始めたきっかけは、日本のプロダクトとの出会いでした。素材やデザイン、細部にまでこだわった品質など、あらゆる面に心を惹かれました。その美しさを、自分なりの視点で表現して伝えたいと思ったのが始まりです。
そのため、アニメーション制作は、いつも製品にまつわるストーリーを作ることから始まります。製品を「主人公」として捉え、それぞれに固有のリズムやロジックがあると考えています。最初のストーリーボードはいつもさまざまなアイデアや要素が含まれていますが、制作を進める中でどんどんシンプルに削ぎ落としていきます。ストーリーを説明するのではなく、感情や余韻だけを残し、見る人の想像力を引き出すようなアニメーションを目指しています。
――『MDノート』との出会いを教えていただけますか。
2018年に新宿の文房具店で『MDノート』を見つけました。シンプルでありながら完璧なデザインと上質な紙に感動し、何冊か購入しました。特に『MDノート』の開きの良さには驚き、店頭で初めて『MDノート』を開いたとき、すぐにアイデアが浮かびました。
ノートが開く動きを「日の出」のように表現し、草が生え、自然界がゆっくりと動き出すというアニメーションを思い付きました。その後、忘れないように、スタジオに戻ってすぐに撮影したのを覚えています。その作品がこれです。
その後も、『MDノート』を使ったアニメーションを何本か制作し、今回の展覧会用の作品も含まれています。また、プロップ(小道具)としてコレクションにも加えたので、美しいノートを使いたいシーンがあれば、必ず『MDノート』を使わせていただいています。
――『MDノート』を見てアニメーションのアイデアが膨らんだ話はとても嬉しいです。パーヴェルさんがアナログツールを好む理由は何かあるのでしょうか?
アナログツールは、デジタルなものよりも一つひとつの体験を深くしてくれると感じます。
毎朝コーヒーを片手に、その日の予定をペンとノートで手書きするのが私のルーティンです。紙の手触りを感じながら1日の始まりに思いを巡らせる時間は、心を静かに整えてくれる一方で、どこか高揚感もあり、私にとって大切で特別な時間となっています。五感を多く使えば使うほど記憶が定着しやすく、その体験も深いものになると思います。スマートフォンに書くだけでは、不思議とすぐ忘れてしまうんですよね。
――アナログのツールを通して、モノや時間を大切にされている印象がありますが、身の回りのツールを選ぶとき、どのような視点で選んでいますか?
シンプルな道具が好きです。『MDノート』のほかには、「無印良品」の一番シンプルなペンを気に入っていて、何年も同じものを使い続けています。また、赤の色鉛筆と「PAPIER LABO.」の鉛筆削りや卓上カレンダーなど。とてもシンプルな道具たちですが、私にはそれで十分。
撮影をするときの機材を選ぶときも同じ感覚で選んでいます。あまり高価な機材を使わず、自分が使い方を熟知している道具だけを使います。撮影中に何かハプニングあっても、道具のことを理解していれば、落ち着いて対応できます。私にとって高機能なことや最新なものよりも、自分が使うすべての道具を理解し、使いこなすことが一番大切なことです。
――最後に、今後の目標や挑戦してみたいことがあれば教えてください。
長期的な目標は、自分の経験を新しい世代のストップモーションアニメーターたちと共有することです。そのために、ワークショップやライブパフォーマンスのことを考えています。私は少し恥ずかしがり屋なので、人前で話すことは緊張しますが、それでも次世代のクリエーターを育てることはとても大切なことだと思っています。
また、近々予定している中でも、特に楽しみにしている挑戦が2つあります。1つ目は、日本の職人に関するアニメーションプロジェクトです。現在、素材の撮影を少しずつ進めておりますが、実際にモノづくりの現場に立ち会い、自らの目で確かめながら撮影できることに、とてもワクワクしています。
2つ目は、奈良にあるお気に入りの書店・ギャラリーでの展覧会です。今のところ、グラフィックデザインのスタイルをもとにした切り絵アニメーションを考えています。
これからも日本の森の中、山の上、海辺、そして日本のプロダクトデザインからインスピレーションを得ながら、日々制作を続けていきたいと思っています。
取材協力、写真提供:FabCafe Kyoto
パーヴェル・パズーヒン(Pavel Pazukhin)
15年以上の経験を持つストップモーションアニメーター兼モーションデザイナーで、プロダクトに焦点を当てたアニメーションを専門としている。京都を拠点に、紙や苔、木といった、自然素材の触感を生かした制作活動を行っている。作品の多くは、手作りのアニメーションと日本のデザインや自然への深い敬意を融合させたものであり、企業向けの制作だけでなく、アート作品の制作活動も精力的に行っている。